息子Sが13才のとき、娘Rが生まれた。
よほど嬉しかったんだろう。学校から帰宅すると赤ちゃんの傍で飽かず眺めていた。
あるとき、しみじみとこう言った。
「ああ、やっと分かった、お母さまが、どんな気持ちでわたしを見ているのか。
こういう気持ちなんだね」
その言葉を聞いてすごくびっくりした。
息子Sが赤ちゃんだった頃に、わたしも同じことを思ったからだ。
「ああ、お父さんがどんな気持ちでわたしを見ているのかが、やっと分かった。
こんな気持ちなんだ」

前の夫と別れたとき、息子S(当時4才)はわたしにこう言ってくれた。
「今度は、ママのことをちゃんと見て、ママのお話をちゃんと聴いてくれる人と結婚しようね。
一緒に探してあげるから、大丈夫だよ」
それから、にっこりと優しく微笑んでくれた。
それなのに、わたしは今の夫に対して、こうしてほしい、ああなってほしいと求める心がどうしてもやまないという時期があった。
どうしようもなく心が暴れだして、相手の「あるがまま」が見えなくなって不安になり、怒りたくなった。
そんな頃、ロシア映画『父、帰る。』を図書館で見つけて、観ることができた。
映画の内容も評判も何も知らなかったけれど、本当に偶然手に取った。
衝撃のラストシーン。
そこで、はっきりと分かった。
本当は知ってたから、ちゃんと分かった。
「生きているだけでいいんだ」
あっという間に家中にほっとした空気が流れ出した。
わたしをちゃんと見てくれる人を一緒に探そうと言ってくれた、あの日から15年後。
19才になった息子Sは「お母さま、もう大丈夫そうだね」と、自分の安堵を確かめるように小さくつぶやいて巣立っていった。
「あるがまま」のまなざし。大丈夫、愛はそれだけで十分伝わる。
もりやゆうこ HSP・HSC/ギフテッド専門カウンセラー